考えてみれば、はみ出すことしかしていなかった。
学部の4年間で5度のアフリカ訪問。なかでも3回行ったブルンジ共和国が大好きになった。
森口雄太 外国語学部 英米学科 2013年度入学/2017年度卒業
わたしの「ハミ出す経験」について話すことは、じつは簡単ではありません。そもそもわたしはハミ出すことしかしていなかったものですから。神戸市外大の英米学科ではイギリス?北米への留学が圧倒的に多いのですが、わたしは学部の4年間で5度もアフリカを訪れています。5回のうちの3回はブルンジ共和国という国へ行ったので、ブルンジが大好きになりました。
5回の渡航を順に整理すると、1年生の春休みにエチオピアとケニアに行きました。2年生では「日本ブルンジ架け橋プロジェクト」という文化交流プロジェクトを立ち上げ、ひとりだけでクラウドファンディングにより寄付を募り約60日間で40万円集めて春休みにブルンジに渡航しました。そのとき現地で作成したビデオレターを神戸の元町映画館で上映しました。元町映画館の2階の小さな上映室だったんですが、来場客の中にはアフリカへ行ったことがある方が何人かいました。このビデオレターではブルンジの良いところだけを紹介するのではなく、同国の課題も入れ込んで120分の映像に編集しました。のちにブルンジの高校で日本を紹介するビデオレターを上映したんですが、彼らの反応から日本の課題について多角的に理解することができました。日本ブルンジ架け橋プロジェクトは、映像を見た人が相手の国のことを知り、自分の国のことについて考えるきっかけとなりました。わたし自身もプロジェクトを通じてさまざまな議論に参加し、日本やブルンジのことについて深く知ることができました。
3年生ではルワンダに渡航し、何かをしたいと思ったけど大使館との関係やつながりもありませんでした。だからじぶんで大使館やJICAと交渉してブルンジ難民キャンプを訪問しました。そして4年生になってケニアに渡航。2016年8月にナイロビで開催されていた「第6回アフリカ開発会議(TICAD IV)」を唯一の学生記者として取材し、9本の記事を執筆しました。
きっかけは1年生の秋に聴いた講演だった。
アフリカにこんなに興味を持つようになったきっかけは、1年生の10月に聴いたNPO法人「テラ?ルネッサンス」の小川理事の講演です。「テラ?ルネッサンス」はウガンダ北部などで元子ども兵の社会復帰事業をおこなっています。それまでまったくアフリカに関心をもっていませんでしたが、ウガンダの子ども兵たちの悲惨な状況を知ったことで、アフリカに対して興味を持つようになりました。外大に入学したので一度は海外に行きたいと思っていましたが、まわりのみんなと同じようなことだけはやりたくなかったのは事実です。考えた末に、よし!アフリカに行ってみようとなったわけです。
「テラ?ルネッサンス」とそしてもう一つ、途上国や国際協力をテーマにした硬派のオンラインメディアを運営するNPO法人「開発メディアganas」で院生時代をふくむ5年間インターンをしました。
「開発メディアganas」では講座を受けたり、記事を書いて添削してもらったりして鍛えられました。学生の視点で取材して写真記事を書くのですが、2週間に1本というハードなものでした。でも、2016年8月には、記者をはじめたときに設定した「安倍総理の前まで行って取材をする」という目標を達成できました。インターン時代には頻繁に学内外で報告会を実施し、活動を通して得られた気づきを発信していきました。
アフリカに関心を持ってもらうには、「ハミ出し仲間」を作ること。
アフリカに関する活動をはじめたものの、アフリカに関心を持ってもらうのは容易なことではありませんでした。まわりからは「なぜアフリカに行くの?」と、何度も聞かれました。留学が当たり前の外大の友人たちには、わたしの行動は理解不能だったと思います。
じぶんが思っていることを発信するために話すだけならお金はかかりませんから、頻繁に講演会を開きました。そのうちに講演会などに必ず来てくれるひとが増えていき、SNSで拡散してくれるようになりました。参加者からの質問で学ぶことも多かったと思います。
発信を続けていれば、じぶんと同じような「ハミ出し仲間」が集まって来ました。わたしの話を聞いてアフリカに渡航したひとが何人か出てきて、「ハミ出し仲間」が増えていきました。
なかでも、大橋くんという外大の同級生とはエチオピアとケニアを一緒に旅するまでの仲になりました。
僕たちはあまりにも日本に慣れすぎている。
日本をハミ出したからできたことですか?日本やじぶんの小さな世界を相対的に見ることではないでしょうか。アフリカは日本からは遠くて、住んでいる人間も食べるものも、生活環境も、考え方まですべてが違います。そんな世界に身を置いたことでじぶんの考え方や価値観が変わりました。どう言ったらいいのでしょう。外大は似たような目標や価値観を持った学生が集まっているから、心地良い環境だと思います。それは、日本に置き換えても同じではないでしょうか。
その心地よさに慣れすぎてしまうと、カラダが動かなくなってしまうと思います。
当たり前のことって、じつは奇跡だ。
電車が時間通りに来ること。毎日3度の食事がちゃんとできること。きれいな水が飲めること。停電なんかおこらないこと。そんな日常って、じつは当然ではない。奇跡の積み重ねなんだとアフリカへ何度も行ったことで痛感することになりました。じぶんが住んでいる場所や境遇に感謝し、アフリカのためにできることを毎日考えながら行動しました。そして、そうやって考えたこと見て来たことを発信し続けているうちに、じぶんが本当にやりたいことはなんだったのかがわかってきました。
フランス語圏のブルンジに行ったことでフランス語の重要性を痛切に感じました。学部の3年から第二言語でフランス語を選択し、がんばって勉強をはじめました。いまでは英語よりもフランス語の方が上手くなり、ほぼ同時通訳できるレベルまでになりました。
アフリカがわたしの人生を変えた。
もともと英語が好きでしたし、高校の英語教師になろうと思って英米学科に入学しました。それなのに、いまはフランス語圏のガボン共和国で外交官として働き、フランス語で毎日を過ごしています。言語を極めたい、毎日いろんなひとと話したい。そんなわたしには、外交官という仕事はじぶんの関心事に非常に近い仕事だと思っています。
コロナでできなくなったこともいろいろありますが、それを悔やんでも仕方がありません。オフラインだけだった講演会がオンラインで世界中のどこからでもアクセスできるようになったじゃないですか。できるようになったことに目を向けるべきです。そうすれば、まずは第一歩が踏み出せますから。
語学力はコミュニケーション能力とは違う。
後輩の皆さん、“学生は時間があってもお金がない”と、よく言われますよね。そのこと自体は間違いではないですが、ぜったいに正しいわけでもありません。学生時代の4年間はとても貴重ですし、4年間なんて意外に短いものです。いま目の前にあることに全力を尽くしてください。やりたいことがあるのに躊躇ったり悩んだりしているなら、まずはアタマではなくカラダを動かしてください。足を一歩前に踏み出しましょう。
言語力はコミュニケーション能力とは違います。外大生は言語力に長けていると思います。でも、肝心なのはコミュニケーション能力なんです。たとえ言語がおぼつかなくても、コミュニケーション能力に長けていれば、大概のことは上手くいくものです。コミュニケーション能力を持っていれば困難な状況の中でも生き残ることができます。活躍することができます。
コミュニケーション能力を磨きたいなら、じぶんが学習した言語が通じない国へ敢えて行くことをお勧めします。知らない国への旅で気づくことは多いものです。良いきっかけもつかめたりします。この点では、アフリカはとても魅力的だと思います。