2023年4月 7日
2023年度宣誓式?入学式を挙行しました
4月5日、466人の新入生を迎えました。
新入生は、久元喜造神戸市長から祝辞をいただき、教職員をはじめ多くの方々から祝福を受け、本学学生としての大学生活をスタートさせました。
ここに、田中学長の式辞を紹介します。
学長式辞
新入生の皆さん、澳门美高梅金殿,澳门赌场appへのご入学、おめでとうございます。また、別室にてご列席の保護者の皆様におかれましては、ご入学生に対するこれまでのご支援に敬意を表しますとともに、この場をお借りして祝意を表します。本日、本学には、大学院に26名、学部に440名の新入生をお迎えすることになりました。新たに466名の学生を本学にお迎えできますことを、大変喜ばしく思います。
また、本年は2019年以来4年ぶりに保護者ご列席の下で、全入学生をこの大ホールにお迎えして入学式を挙行することができ、私ども教職員一同も皆さんと同様、気持ちを新たにして新年度に臨んでおります。
新型コロナによるパンデミックは、皆さんの高校や大学での勉学や生活に非常に大きな困難を強いてきたかと思います。とりわけ、学部に入学される多くの皆さんは、3年間の高校生活全体が大きな制約を受け、思い通りに勉強や課外活動ができなかったり、友人との交流に支障を来したりして、大きな悲しみを味わったのではないかと推察しています。そうした困難を乗り越えて、本学への入学を果たした今、皆さんは感慨深い気持ちを持ちながら、大学でやりたい勉強を思い描いているのではないでしょうか。
語学そのものを深め究めたいと考えている方もいるでしょうし、外国語をツールとして人間の行動原理や社会の有り様を専門的に勉強したいと考えている方もおられるでしょう。大学でそうした専門性を磨いていただくことは言うまでもなく必要不可欠なことですが、皆さんに少し立ち止まって考えていただきたい点についてお話し、はなむけの言葉にしたいと思います。
現代の社会は非常に大きな変革の時期にあると言われております。こうした変革を促している原動力は多々あると思いますが、科学技術の進歩による新しい製品やサービスの登場と普及は、そうした原動力の一つであることは衆目の一致するところです。実際、約50年前の1970年代半ばに登場し1980年代に普及したとされるパソコンは、多くの人々の働き方を変えてきました。人々は手書きや手計算からワープロや表計算ソフトにシフトし、この結果大きな産業の構造変化が生じました。
また、1990年代後半に登場し約15年前に普及したとされるスマートフォンは、瞬く間に人々の業務や生活に必須の必需品となりました。スマートフォンは、近年では人工知能(AI)の力を背景に進化しており、ますます便利なツールとして皆さんの生活にとって切っても切れないものになっています。
ご存じの方も多いかと思いますが、現在生成系AIと呼ばれる新たなサービスが急速に普及しつつあります。生成系AIにはいくつかの種類がありますが、その一つである「チャット GPT」は急速に普及していますので、見聞きした方や実際に利用した方も多いかと思います。
その急速な普及は目を見張るもので、『日経ビジネス』の調査によると、昨年11月に「チャット GPT」が公開されてからユーザー数が100万人に達するまでに要した期間はわずか5日であったとされています。この期間は、皆さんにおなじみのインスタグラムで2.5ヶ月、スポティファイで5ヶ月となっておりますので、その普及スピードは驚異的なものであることがわかります。
「チャットGPT」は、検索窓のようなボックスに質問を入力すると、質問に対する回答文章が非常に自然なことばで出力されるツールですので、誰もがアシスタント的にこれを利用でき高い利便性を持つツールであると言われています。一方で、この種の生成系AIに対しては、人間の仕事――とりわけホワイトカラー労働者が担ってきた仕事――がAIによって奪われてしまう可能性や、AIによって作成されたコンテンツの取り扱いルールが確立していないといった未解決の問題があります。
また、AIの利用が人間の行動や心理に及ぼす効果はまだまだ未知のものですし、AIの成果の不適切な利用といった倫理上の問題も突きつけられています。さらに、この種のAIの普及によって、語学学習が不要になるのではないかという語学学習者にとっては看過できない懸念まで持ち上がっています。AIの普及によって突きつけられたこれらの問題は、すぐれて人文?社会科学的な課題であり、わたしたちはこれらの問題に対して答えを出す努力を行う必要があります。
こうしたAIとの付き合い方を考えていく上で、一歩先にAIとの付き合いを始めた将棋界の例を考えることがヒントになるかもしれません。将棋の世界では、10年ほど前にプロ棋士を上回る能力を持つAIが現れましたが、現在、将棋界を席巻している藤井聡太六冠は、AIを活用し深く研究することで、AIを超えるほどの棋力を養ったと言われています。AIと人間との共創を進めることによって、人間の能力も高めることができる可能性があることをこの例は示しています。AIとの共創を進め自らを高めていくためには、科学技術を専門的に扱う理系分野で何が生じており、どのような課題に直面しているかを把握する必要があるでしょう。
皆さんには、是非、専門性を深めると同時に、視野を広げて科学技術の進歩がどのような人文?社会科学上の問題を引き起こしているかについても常に関心を持っていただきたいと思います。
日本の高校では、進路志望に応じて理系?文系に分かれて勉強を進めることが行われてきました。この結果、ともすれば文系進学者が理系分野に関心を持たず、逆に理系進学者が文系分野に関心を持たない状況が生じてしまうことがありました。
しかし、これまでお話ししてきましたように、AIの発展に象徴される科学技術の進展が社会に対してもたらす課題は、すぐれて人文?社会科学的なものです。このことは、現代では文理を横断するような視野の広い勉学が必要不可欠な時代となっていることを示しています。
ご存じの方も多いかと思いますが、本年度より本学はお隣の神戸市立工業高等専門学校と、神戸市公立大学法人という同じ法人の下で運営されることになりました。本日の入学式には、法人の理事長だけでなく、兄弟?姉妹校となった神戸高専の校長も出席しております。
皆さんが、それぞれの専門性を高めると共に、文理を横断する広い視野を養っていただくために、関係する皆さんのご意見を聞きながら、高専との連携についても模索していきたいと考えています。
大学の4年間は長いようで、あっという間に過ぎてしまいます。皆さんが、この貴重な大学時代の期間での学びを通じて、関心を持つ領域の専門性を高めるとともに、広い視野を持って社会が直面する課題を解決できるような能力を身につけ、大きな成果を上げることを心よりお祈りして、私の式辞とさせていただきます。
ご静聴、ありがとうございました。
2023年4月5日
学長 田中 悟